日本大使館筋によれば、最近立て続けに2件のいわゆる「睡眠薬強盗」事件がギリシャで発生したそうだ。被害者はいずれも若い日本人男性で、アメリカ人を名乗る旅行者風の男に睡眠薬入りの飲食物を与えられ、意識を失ったところで所持金・携行品一切を盗まれたという。
犯行現場はクレタ島とサントリーニ島。いずれも名だたる観光地で、毎年多くの日本人が訪れる。
標的になりやすいのは、単独または少人数で旅行中の若い男性である。一般的に、女性旅行者は細心の注意を払って旅行しており、旅先で知り合った男性(通常、この種の犯罪者は男性である)を簡単に信用したりはしないが、若い日本人男性は外国旅行の開放感と孤独感の混ざり合った独特の精神状態のもとで、いともたやすく職業的犯罪者どもの罠に落ちる。
犯罪者たちはおしなべて感じの良い人々である。きわめて紳士的な態度であなたに近づき、外国人旅行者やビジネスマンをかたる。ある場合には、サウジアラビアから遊びにきた金持ちのボンボンであり、別の場合には、日本通のドイツ人商社マンである。
彼らとあなたの出会いは自然である。街中のカフェで、フェリーの中であなたは彼らと偶然に出会う。しかし、その偶然は、彼らが慎重にあなたの行動を観察し用意周到に待ち伏せした結果なのである。また、彼らは慎重である。あなたを完全に信用させるためなら1日や2日の時間は割くし、場合によっては1週間でも付き合う。それだけ収穫も大きいからである。
私には被害者の気持ちがよく理解できる。海外旅行に出れば、当然外国の人々と触れ合いたい。特に、バックパックを背負い貧乏旅行を続ける若者に、その気持ちが強いであろう。
しかし、敢えて言おう。旅行中に本当の友達はできたりはしない。あなたは、基本的にその土地にお金を落とすお客さんでしかない。そのことをわきまえて行動すれば、人々はあなたを歓待し美しい思い出を残すことができよう。だが、友達を求めれば、あなたには詐欺師たちが寄ってくる。
それではあまりにも寂しいではないか、と反論するのであれば、少なくとも次のことは言いたい。大都市および観光地では他人を信用するな。特に観光客風の人間には気をつけろ。ユースホステルの部屋で隣になっただけの人とは一緒に食事をするな。ビールをおごられるな。ビスケットは断れ。
このような原則の下で行動したとしても、旅は十分に楽しいものになるだろう。たとえば船の中で子供連れの夫婦と隣り合わせになって、日本人は勤勉だとか何とか、ちょっとした会話を楽しみ、場合によっては果物をごちそうになったりする。もちろん、彼らはあなたを自宅に泊めてくれたりはしない。行き先に着けばお別れだ。しかし、それが旅先での自然な触れ合いというものである。
首都アテネには多くの犯罪者たちが集まっている。スリやひったくりもいるが、アテネの犯罪者の特徴は、もう少し手の込んだものを好むということだ。
最も恐ろしいものの一つは前項で触れた「睡眠薬強盗」である。睡眠薬を飲まされて放置されるわけであるから、場合によっては死を招くし、精神的ダメージも大きい。
被害額が大きいのは、暴力バーである。ひっかかるのは主に男性で、街中で「友達」になった自称旅行者がその種の場所に誘導する。クレジットカードを持っているかどうか確認したがるので、手口を知っていればすぐに気が付くはずだが、被害は後を絶たない。彼らはすぐに店に連れて行かないこともある。夕方もう一度会う約束を取り付けたりする。少しでも変だと思ったら、気がとがめるかもしれないが、約束をすっぽかすに限る。アテネの街で友達を見つけたりすることは絶対にありえない、と心得るべきである。
他にはニセ警察官というのがある。まず、新聞を手にしたアラブ人風の男があなたに近づいてきて、しばらくして立ち去る。すると、私服刑事を称する男が「今、麻薬の取引をしていただろう」と言ってあなたを尋問にかかる。そして、あなたのパスポートなどをチェックするフリをして、金品を巻き上げる。ニセ警察官に目を付けられないようにするためには、街角でぼんやりたたずんだりしないことである。不幸にも目を付けられてしまったら、慌てず騒がず警察官としての身分を確認し、必要なら警察署に一緒に行くよう申し出よう。たいていは、それで退散する。